05月≪ 123456789101112131415161718192021222324252627282930≫07月

吉村昭著『彰義隊』

2012年10月10日
螟ァ豢・蜷帙€€遯薙°繧峨・逵コ繧・005_convert_20121010112358
*「新居」の窓からの眺め

昨日夜明け前に目が覚めた。近頃ではこういうことが珍しくないが、ここ数日酷くなった。なかなか眠りにもどれないので、枕元に置いている読みさしの本の続きを読んだ。

 吉村昭著『彰義隊』新潮文庫

これはこの間、山形から帰る際に電車の中で読むために買った本である。

大分以前のこと、同じ作家の『長英逃亡』の新聞広告を見て、高野長英が逃げるだけで小説になるのだろうか、と疑問に思った記憶がある。数年後、実際に読んでみて心の底から納得した。逃げるだけで立派な小説になるのである。むろんそこには、逃亡者を執拗に追跡してゆく作家の目がある。

『彰義隊』も『長英逃亡』同様、「逃げる話」である。逃げるのは上野寛永寺の貫主だった輪王寺宮(のちの北白川宮能久親王)である。宮は、明治天皇の叔父であるにもかかわらず、戊辰戦争では皇族でただ一人朝敵になってしまう。それは上野戦争に巻き込まれ、東北に逃れて奥羽越列藩同盟の盟主に推戴された結果であるが、そのそもそものきっかけは、徳川慶喜の助命嘆願に赴いた宮に対する東征大総督有栖川宮熾仁(たるひと)親王の態度が非礼で、宮と宮の側近たちを憤慨させてしまったことにあるらしい。

私が一番面白かったのは、上野が落ちた後、宮の一行がどうやって官軍の追及を逃れ、品川沖の榎本武揚の艦隊まで逃げおおせたかというところである。この辺りのディテールの確かさには舌を巻く。多分普通の学者であれば、見逃すか、見てもここまでは想像力が及ばないのではないかと思われる。この作家の執拗なまでの事実の探求が、思いもよらない新しい光景を開くのは、例えば『生麦事件』の場合と同じである。

なお、宮は、仙台藩が降伏した後、自らも降伏し、その後プロシア留学を許されて軍人としての道を歩んだ。明治28年、日清戦争によって割譲された台湾に近衛師団を率いて出征。マラリアのため現地で薨去している。






読書ノート