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宮本輝『錦繍』(新潮文庫)

2012年03月06日
「前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした」

蔵王もドッコ沼もゴンドラ・リフトも山形市に生まれた者にはお馴染みのものだから、それだけでもこの作品を読む十分な理由になるはずなのに、私はとても長い間、書店で見かけるたびに、冒頭のこの一文を読むと本を閉じ、そっと書棚に戻すことを繰り返してきた。それがなぜかは自分でもよく分からない。どうせいつかは読むのだから、今はまだいい、といった心境だったかもしれない。

それが、山形駅前の本屋で何のためらいもなく買ってしまったのは、その時の私が、あることで非常なストレスを感じていたからだと思う。この気分を大阪まで引きずってゆくのは堪らない。

山形新幹線の座席に座ってすぐに読み始め、読み終わったのは東海道新幹線の車中だった。

冒頭から最後の一行まで、ロマネスクの鐘が鳴りやまない。読み終わってすぐに二回目が読みたくなった。東北から戻って数日の間、本書の内容を反芻するうちに何かが分かったような気がした。この感覚をだいじにして、既読のものを含めて宮本作品を読んでみたい。例えば、『星宿海への道』は、数年前に読んで手が込みすぎていると感じたが、今なら多分違う読み方ができるだろう。



読書ノート