06月≪ 12345678910111213141516171819202122232425262728293031≫08月

チケット紛失―『高山寺蔵 南方熊楠書翰』余録?

2010年03月22日
海外旅行の最中にこれから必要なチケットが消えてなくなっていたら、誰だって頭を抱えるに違いない。法龍は、真言僧としては史上初となる地球一周の旅の途中でこの災厄に見舞われた。

気付いたのはパリ滞在中の11月末である。パリで彼を世話してくれていた上田万年(かずとし)が彼の切符を改めて、地中海から先の船切符の紛失に気付いた。
慌てた法龍は、ロンドンの熊楠に手紙を書いたが、それはあまり要領を得ないものだったらしい。それでも熊楠は、ブラウンに手紙で、法龍が使っていた部屋に忘れ物がないかどうか問い合わせた。
実は紛失物はもう一つあった。輪宝(りんぼう)という密教法具である。これはブラウン方で発見され、ロンドンとパリの日本公使館を経由して、12月末に法龍に届けられた。しかし、肝心の切符の方は、ついに出てこなかった。

法龍は、フランスからイタリアに行き、おそらくはブリンディジからインド行きの船に乗る予定で、ブッキングも済ませていたらしい。それがこの紛失事件でおじゃんになってしまった。法龍は、上田やギメ博物館通訳の河村四郎の助けを受けながら、トーマス・クックのパリ支店に掛け合ったらしい。しかし、結局イタリア行きはあきらめて、マルセイユからアジア行きの船に乗っている。

不運としか言いようがないが、こういうことに無頓着そうな法龍にも問題があったと思われる。この事件は、『高山寺蔵 南方熊楠書翰』に収められた第2、3書翰の主要な話題であり、その後の書翰にもちょくちょく取り上げられている。
研究ノート